2007年01月06日

図書館民営化論とリバタリアニズム

以前、「図書館民営化論」という記事を書いた。1年以上前の記事である。

その記事の内容に関連することだが、その頃に比べ、私はリバタリアニズムの考え方に対してより興味を覚えるようになった。

なぜこんなことを書いたかというと、上記記事を引用して論じているブログ記事を見つけたからだ。

albinoalbinism - 図書館を民営化するとマンガ喫茶になる(かもwwwwww)

それを材料に、リバタリアニズムの考え方を少し書いてみようと思う。その考え方は大きく二つに分けられるが、結論は同じだ。

なお、私はリバタリアニズムについては「興味を抱いている素人」レベルであって、私がここに書くことには不正確な点、というよりも、稚拙な点が多く含まれる。また当然ながら一般的な、あるいは特定のリバタリアンの考え方を完全に表現しているものではないことを、記しておく。

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笑止。公共の施設はそれを使う機会が平等に与えられることが重要であって、勝手に利用しなかったからといって「不公平」などには当たらない。

リバタリアニズムの考え方からは、(民間で代替可能であるにもかかわらず、個人から強制的に徴収される資金で運用されるような)公共の施設など重要どころかそもそも不要である、としか言いようが無い。

……のだが、そこに行き着く前に。

「機会が平等に与えられる」というのはどういうことだろうか?

例えば、家で寝たきりの老人や、視覚に障害を持つ人にも、図書館を利用する機会は平等なのだろうか? 日本語を読めない在日の(税金を支払っている)外国人は? あるいは税金を支払うために昼間一生懸命働いていて、夜、図書館の閉館時しか自由時間の無い労働者に対してはどうなのか?

私の利用している図書館では、インターネットを介して書籍を検索し、貸出の予約申込をすることができる。本が空くとメールで連絡が来る。(これは非常に便利だ。)だが、ネットやメールの利用の機会は果たして「平等に与えられている」のだろうか?

家の隣に図書館がある人と、徒歩20分の人(私のことだ)にとって、機会は本当に平等だろうか? 我が家の隣に図書館がないのはなぜなのか? これは不平等ではないのだろうか?

……揚げ足を取りたいわけではない。もちろん問題は「落としどころ」をどこにするべきかということなのだが、ここで言いたいのは、その落としどころを決める基準は一体何なのか、ということである。

民主主義信奉者ならば、「多数派の意見」が基準であると言うだろう。過半数の市民が「家の隣に図書館が無いぐらい、我慢しろ」と私に言えば、私は我慢せざるをえない。

一方、この記事を書いた方ならば、「少数の専門家の意見に従えばいい」と言うのかも知れない。

どんな分野でもそうだが、「頭の良い」奴とかその分野に精通している奴はその他に比べて少数であるのは当たり前であるから、営利事業のように多数を優先すると質は落ちてしまう。ここが国鉄の民営化などとは異なるところだ。

図書館を運営しているのは専門家であり、その知恵は我々庶民の及ぶところではない、ということである。所謂パターナリズムと呼ばれる考え方だ。

もちろん実際には、日本は民主主義国家であるから、多数派市民がうまく行かないと思えばその専門家をクビにしたり、図書館そのものを廃止したりできる。……民主主義が本当にうまく機能するならば。

さて、リバタリアンは何を基準とするのか。それは「個人の自由」である。(もう少し詳しく言うと自然権である自己所有権。)

図書館を使わない、あるいは図書館は不要であると考えている人に対しても、その必要性を説き、寄付を募るのは一向に構わない。しかし図書館のために彼の財産を強制的に奪うことは許されない。

図書館が必要だと思うならば、必要だと思う人たちでお金を出し合って運営すればいい。寄付を募ってもいいし、利用料を取る形態でもいい。ともあれ、自ら労働し稼いだお金を別のこと使いたい人は、放っておいてあげるべきだ。使途は彼が決める。リバタリアンはそう考えるのである。

これがリバタリアニズムの考え方の一つ目、「自然権論的リバタリアニズム」である。

……だが、これでは図書館の「質」が落ちてしまうのではないか? 個人の自由だけ尊重する一方で、図書館の質については、リバタリアンは問わないというのか?

そんなことは無い、という考え方を次に述べよう。(「質」が何を意味しているのかについての食い違いがあるにせよ。)

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そんなに言うなら民営化してみればいい。仮に事業が立ち行かなくなって潰れた地域の住民は、本もろくに読まない知的レベルの低い連中であるとして全国の笑いものになるぞw

事業が立ち行かず潰れるのは、市場ニーズが無い場合だけではない。ニーズを無視した放漫経営を続け、赤字を垂れ流せば、その事業は続かない。

問題は、放漫経営であっても、国や地方自治体の援助に頼れば、その事業体は生き残れてしまうこと、そしてそのことがより効率的な事業体の新規参入を妨げることだ。

結果、誰が得をするのだろうか? 放漫な経営で得をするのは誰か? そうした事例を、我々は頓に目にしているのでは無いだろうか?

図書館が個人にとって(本人が利用する、しないに関わらず)本当に必要なものであるならば、そのニーズを満たすべく市場は機能するだろう。そして市場によって供給される図書館は、強制的に徴収した資金を元にしているよりも効率的に運営される。

また、図書館の存在が書籍の販売そのものに対して影響を及ぼしているという事実もある。図書館員の時給と書店員の時給、どちらを重視すべきなのか。多数派の市民は(あるいは少数の専門家は)、そのような全ての経済的影響を完全に考慮した上で計画を立て、常に適切な決定を下せるのだろうか。

もちろん市場も失敗することはある。しかし、市場はそれを是正する機能も有している。税金によって運営される事業体に比べれば、失敗は迅速に取り戻されるだろう。

また、市場ニーズがどうあろうと、図書館は文化を守り、庶民を啓蒙するために必要な公共財なのだ、という主張もある。それに対しては、図書館の数や規模を、(市場の機能に加えて)自由意志による寄付でやっていける範囲に留めればよい、と答える。それでも、図書館を効率的に運営するインセンティブがより高まることは明白である。

そうして、「全国の笑いもの」になるのが嫌な人たちの住む地域には、笑いものになりたくないために拠出してよい資金に応じた図書館ができるだろう。そうでない人たちの住む地域には、図書館はできない(漫画喫茶ができるかもしれない)。結果、図書館の規模・立地は、より効率的になる。

要するに、多数派市民なり少数の専門家なりが「計画」を立ててそれを個人に強制するよりも、市場に任せて放っておいた方がより「うまくいく」ということだ。一つ目の考え方で触れた「落としどころ」についても、全ての人が最も満足するところに落ち着くはずだ。そういう意味において、図書館の質は高まるだろう。(図書館の「質」とは「計画の実現度合い」のことである、というのならその限りではない。)

これがリバタリアニズムのもう一つの考え方、「帰結主義的リバタリアニズム」である。

なお、上記は、ある図書館を民営化すればその図書館はうまく存続する、と言っているわけではないことは明らかであろう。さらに、様々な保護や規制が絡んでいる限り、本当の意味での効率化は難しい。たとえば民間の有料図書館ができても、隣の市に税金で援助されている格安の図書館があるのなら、人々はそちらを優先的に利用するかも知れない。

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以上、リバタリアニズムの二つの考え方を示した。はっきり言えば、特にこの国においては、大多数の人々には丸々とは受け容れがたい言説であろうと思う。私も、自分のことをリバタリアンであるとは、言えない(少なくとも今のところは)。例えば上記ではわざと触れなかったが、図書館の運営にも関係するであろう「著作権」については、どう扱えばよいのか、未だよくわからない。

ただ、ある人が「私はあなた方の自由を侵すことはしない。あなた方も私の自由を侵さないで欲しい」と主張したとき、「公共の福祉」のためにその主張を無視してよい、とはっきり言うことができなくなってきているのも事実である。



posted by CatchYourBear at 02:58
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[世迷い事]このリバタリアンはバカタリアンだったわw
Excerpt: 図書館のエントリに対してTrackBackがきた。 その記事の内容に関連することだが、その頃に比べ、私はリバタリアニズムの考え方に対してより興味を覚えるようになった。なぜこんなことを書いたかというと..
Weblog: albinoalbinism
Tracked: 2007-01-06 04:59

[公務員、官僚][官から民へ][政府、行政]図書館に税金をつかうべきか
Excerpt: ほどよい司書さんが「図書館民営化」について、民営化反対の立場から、考えを書いています。 「プリオンさんへの再反論1 民営化の意義」@はてブ 「プリオンさんへの再反論1 民営化の意義」@ほどよい司書の..
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えらそうなことは・・・
Excerpt: 連日ない頭をひねって考え続けている「図書館」のこと。 昨日聴いた講演はそれなりに
Weblog: 銀の星
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