2004年10月10日

ウォール街のランダム・ウォーカー

 もし私が友人に、「株式投資を始める前に一冊だけ読んでおくとしたら、どの本がいい?」と聞かれたとしよう。私は「一冊だけ?」と聞き返す。

「そう、一冊だけ。何冊も本読んだり、色々勉強したりするの、面倒くさくて。」

「・・・それなら、この本かな。その代わり、斜め読みじゃなくて、熟読してちゃんと理解した方がいいよ。」

 そう言って私が手に取るのは、多分この本である。

RandomWalker
ウォール街のランダム・ウォーカー

 この本が個人投資家に発するメッセージは、非常に単純だ。もっとも、その意味するところと価値を理解するには、実際にはかなりの思索(そして人によっては実体験)を必要とするだろう。メッセージを私なりにまとめると、以下のようになる。
  1. 株式投資に労力をかけるつもりがないなら、低コストのインデックスファンドをドル・コスト平均法で買え。
  2. 株式投資に労力をかけるつもりがあるなら、一株当たり利益、株価収益率、利益の成長率といった基準が将来的にも平均を上回るような銘柄を選び、かつ取引回数を少なくしろ。(ただし実行するのは非常に難しい。)
 冒頭の面倒くさがりの友人は、「1.」の方を選ぶはずだ。それ以外の投資戦略を下手に取ることがいかに危険かを、この本は説明してくれる。だがもし友人の気が変わり、株式投資に労力をかけようと思い直したならば、「2.」の戦略を取るために別の本を読むなどの勉強を始めることと思う。ちょうど私のように。

 ここで、株式投資に関して知識のある読者のために少し説明しておく。この本の主張は(単純であるにもかかわらず)誤解されやすく、旧版を含めこの本のAmazonのレビューを読んでみると、「1.」の内容が強調されているものが多いようだ。そして、この本が現代ポートフォリオ理論やその背景となる効率的市場仮説を盲信しているかのような批判へとつながっていく。(タイトルのせいもあるのだが。)
 しかしこの本は、効率的市場仮説の礼賛本ではない。上記「1.」は、労力をかけずに市場全体と同じリターンを上げられる、という理由で勧められており、効率的市場仮説から理論的に導き出されたから信じろ、と主張しているわけではない。(結論は同じになるにしても。)
 著者であるバートン・マルキールの考え方は、効率的市場仮説信奉者を揶揄する例の有名なジョークに対する答えに集約されている。そのジョークとは以下のようなものだ。
 効率的市場仮説信奉者のファイナンス教授と、その学生が道を歩いていた時、10ドル札が道端に落ちていた。学生が10ドル札を拾うと、教授はそれを大声でたしなめた。「君はまだわかっていないのかね。もしこれが本物の10ドル札だったなら、もうとっくに誰かが拾っているはずさ」
 マルキールだったら何と言うのか、それはこの本を読んで頂きたいと思う。

 さて、株式投資に関する知識が全く無い読者には、この本の内容は少しばかり高度過ぎるかな、とも思う。それに分量も多く、読み終わるには相当の時間がかかるだろう。だが、この本は、株式投資本には稀な読みやすさを備えていて、実際何度も読み返したくなる。ここで言う読みやすさとは、簡単なことが書いてあるのではなく、高度な話が簡単に理解できるように工夫されて書いてあるということである。(簡単なことしか書いていない株式投資本は多数ある。)過去のチューリップ・バブルや南海泡沫バブルの話などは、一つの歴史小説のように非常に興味深く読めてしまう。また、ジョークも気が利いていて、テクニカル分析について説明している章などは、思わず笑ってしまうこと請け合いである。最初はとっつきにくいかも知れないが、とりあえず読み進めてみることをお勧めする。

 最後に。私の現在の純資産総額におけるインデックスファンドの占める割合は、数パーセント程度といったところだ。今後この割合を増やそうとは、今は考えていない。私は「2.」の戦略を拡充していくつもりなのである。それには、この本以外も勉強する必要があるが、この本に書いてあることは、今後も忘れずにいようと思う。少なくとも、「向こうに10ドル札が落ちているぞ」という噂や助言に従うのだけは止めよう。


現在の純資産総額:15,842,340円
30億円まであと:2,984,157,650円

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